衝撃の20倍格差:データが語る「多言語対応」の実績
インバウンド対策、「見えない顧客」を逃していませんか?
多くの企業が、国内市場に最適化された高品質なウェブサイトを運営しています。しかし、そのサイトが日本語のみで構築されている場合、グローバル市場において「存在しない」のと同じ状態になっている可能性に、どれほどの企業が気づいているでしょうか。
以前の記事(https://www.shin-inc.jp/column/foreign-language/)では、ウェブサイトを多言語対応させることの「理論的」な重要性について解説しました。
インバウンド需要の回復や越境ECの拡大に伴い、多言語化がビジネスチャンスを広げることは論理的な帰結です。
この記事は、実際に多言語対応を行い、1年以上運用したサイトをご紹介します。
昨年、自動翻訳機能を導入し、全ページ多言語自動対応したクライアント様のサイト(以下、サイトB)と、導入していない多言語数ページを手動対応したサイト(以下、サイトA)のパフォーマンスを、Google Analyticsの「オーガニック検索(広告費をかけていない自然な検索流入)」データで直接比較しました。いずれも観光業の外国の旅行者がターゲットとなるサイトのデータです。
その結果は、多言語対応の有無が「20倍」という衝撃的な格差を生み出すという、明確な事実でした。
業種は違えど、海外の旅行者も視野に入れたインバウンド事業者という立場。
このデータが何を意味するのか、なぜこの差が生まれるのか、そして対応しないことがどれほどの「見えない機会損失」に繋がっているのかを、分析します。
【比較データ公開】多言語対応「あり vs なし」の決定的差
分析の対象とするのは、特定の期間(過去3ヶ月)における両サイトの「セッションのデフォルト チャネル グループ」を「Organic Search(検索からの訪問)」に絞り込み、国別に分類したGoogle Analyticsのデータです。これにより、広告やSNS経由ではない、純粋な「検索エンジン経由のアクセス」における国内外の比率が明らかになります。
サイトA(多言語対応なし)の実態
まず、高品質なコンテンツを持つ、典型的な日本語のみのウェブサイト(サイトA)のデータを見てみます。

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国内トラフィック: 全オーガニック検索トラフィックのうち、99.12% が「Japan(日本)」からとなっています。
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海外トラフィック: 2位の「Taiwan(台湾)」が 0.24%、3位の「United States(米国)」が 0.18% であり、日本以外からの全トラフィックを合計しても、全体のわずか 1%未満(約 0.88%)に過ぎません。
これは、多くの日本企業サイトで見られる典型的な構成比です。インバウンド事業者でなければこれで問題ないでしょう。
しかし、このデータが示す冷厳な事実は、「このサイトは、海外の検索ユーザーにとっては事実上、存在していない」ということです。
海外からのわずかなアクセスは、海外在住の日本人や、日本語で検索を行う特殊な層に限られると推察されます。
サイトB(自動翻訳 導入後)の実態

次に、サイトAと同じく観光業でありながら、高品質な自動翻訳ソリューションを導入して多言語対応(英語、韓国語、繁体字)を行ったサイト(サイトB)のデータを見てみます。
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国内トラフィック: 「Japan(日本)」からのトラフィックは 80.01% 是。
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海外トラフィック: 驚くべきことに、全オーガニック検索トラフィックの 約20%(19.99%)が海外から流入しています。
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内訳: 「South Korea(韓国)」が 7.57%、「Taiwan(台湾)」が 5.18%、「Hong Kong(香港)」が 1.06%、「United States(米国)」が 1.06%、「Singapore(シンガポール)」が 0.8% と、アジア圏と英語圏から多様な流入が確認できます。
サイトAとの差は歴然です。サイトBは、日本語のみのコンテンツでは決して獲得できなかった「20%」もの新規ユーザーを、オーガニック検索、すなわちコストのかからない自然流入で獲得できているのです。
比較分析:トラフィック構成比は「20倍」の差
この2つのサイトのデータを並べて比較することで、その差はさらに明確になります。
【表1:多言語対応の有無による海外オーガニック検索トラフィックの比較】
| 指標 (Metric) | サイトA (多言語対応なし | サイトB (自動翻訳あり | 差異 |
| 日本からのトラフィック比率 | 99.12% | 80.01% | - |
| 海外からのトラフィック比率 | < 1% (約 0.88%) | ~20% (約 19.99%) | 約 20倍 |
| 主要な海外市場 | ほぼゼロ | 韓国、台湾、香港、米国、シンガポール等 | 多様な新規市場 |
この「20倍」という数字は、単なる偶然や誤差の範囲ではありません。これは、ウェブサイトの「構造的な設計思想」の違いがもたらした、必然的な結果です。
問題は、なぜこの20倍の差が生まれたのか。そして、サイトAが失い続けている「19%分の機会損失」の正体とは何なのか。次のセクションで、この差を生み出す検索エンジンのメカニズムを詳細に解明します。
なぜ差がつくのか?多言語SEOと「インデックス」のメカニズム
Google自動翻訳をしていれば多言語対応ができるという誤解
多くの企業が、「高品質な日本語のコンテンツを作れば、海外のユーザーもブラウザの翻訳機能などを使って見つけてくれるはず」という誤解をしています。
しかし、これは検索エンジンの基本原則を無視した希望的観測に過ぎません。
Google検索の最も重要な役割は、ユーザーの検索クエリ(検索キーワード)に対して、最も関連性が高く、最適な「言語」のコンテンツをマッチングさせることです。
例えば、アメリカのユーザーが「ベルギーワッフルのレシピ」を「英語」で検索した場合、Googleは「英語」で書かれたレシピサイトを優先的に表示します。その検索結果に、どれほど高品質であっても「日本語」のレシピサイトが表示されることは、ほぼありません。
これが、サイトAの海外トラフィックが1%未満である根本的な理由です。サイトAのコンテンツはほぼすべて日本語であるため、Googleのインデックス(データベース)には「日本語のサイト」として登録されています。
その結果、韓国のユーザーが韓国語で検索しても、米国のユーザーが英語で検索しても、Googleの検索結果に表示される「資格」さえないのです。
サイトBで「20%」が生まれた仕組み:多言語化=「インデックス対象の拡大」
では、なぜサイトBは韓国語や英語の検索結果に表示され、20%もの海外トラフィックを獲得できたのでしょうか。
その答えは、自動翻訳ソリューションの導入が、単なる「ウェブサイト上の翻訳機能の追加」ではなく、「検索エンジンが読み取れる、個別の言語ページ(URL)を新たに生成する」という「多言語SEO(海外SEO)」の根幹を成す施策であったためです。
このメカニズムは以下のステップで機能します。
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翻訳ページの生成
サイトBが自動翻訳を導入した際、「example.com/page-jp」という日本語ページに基づき、「example.com/en/page-en(英語)」「example.com/ko/page-ko(韓国語)」「example.com/zh-tw/page-tw(繁体字)」といった、言語ごとに独立したURLを持つページが自動的に生成されました。 -
検索エンジンによる認識(インデックス)
これらの新しく生成された各言語のページを、Googleの検索ボットがクロール(巡回)し、それぞれの言語のコンテンツとしてインデックス(データベースに登録)します 。 -
グローバルな検索結果への表示
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米国のユーザーが「英語」で関連キーワードを検索すると、Googleはインデックスされた「
example.com/en/page-en」を検索結果に表示します。 -
韓国のユーザーが「韓国語」で検索すると、Googleは「
example.com/ko/page-ko」を表示します。
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これが、サイトBが韓国から 7.57%、米国から 1.06% のオーガニック検索トラフィックを獲得できた技術的な理由です。サイトBは、多言語化によって「日本語市場」という1つの土俵から、「英語市場」「韓国語市場」「中国語市場」など、複数の土俵で戦えるように自社の資産を拡大したのです。
まさに、外国の検索ユーザーの流入(海外からの検索流入)が増加し、サイト全体の検索流入が増加するという、多言語SEOの「ポジティブなフィードバックループ」が回り始めた結果が、サイトBの20%という数字なのです。
最大の懸念:「自動翻訳」はGoogleに評価されるのか?
ここで、多くのウェブ担当者が抱くであろう最大の懸念です。それは、「自動翻訳されたコンテンツは、低品質なコンテンツとしてGoogleからペナルティを受け、SEOに悪影響を及ぼすのではないか?」という疑問です。
Googleの「古い」見解と「新しい」現実
確かに、過去のGoogleは自動翻訳に対して懐疑的でした。AIの翻訳精度が低かった時代には、「自動翻訳は...スパムと見なされる可能性がある」と警告していたことも事実です。
この「古い常識」が、今も多くの企業の多言語化を阻むブレーキとなっています。
しかし、AI翻訳の精度が飛躍的に向上した現在、Googleのスタンスは明確に更新されています。
Googleは2023年に発表したAI生成コンテンツに関するガイダンスにおいて、「制作方法を問わず高品質のコンテンツを Google は評価する」と明言しています。
重要なのは「AIが作ったか、人間が作ったか」という制作プロセスではなく、「そのコンテンツがユーザーにとって高品質で有益か(E-E-A-T: 経験、専門性、権威性、信頼性を備えているか)」という点です。
Googleのジョン・ミューラー氏も、AI翻訳に関する質問に対し、非常に重要な見解を述べています。
「もしページが適切に翻訳され、対象読者にとって適切な言葉が使われていて、つまりユーザーにとって良いものだと考えるなら、インデックスさせることは問題ない」。
結論として、現代の高品質なAI翻訳ソリューションは、Googleのスパムポリシーに違反するどころか、SEOの工数とコストを劇的に削減し、グローバル市場への露出を拡大するための「有効かつ合理的なツール」として、Google自身にも認められているのです。
ただし、ミューラー氏が示唆するように、「最低限の基準を超える」努力、すなわちAIの翻訳結果を人間がレビューし、より自然なローカライズを施すことで、その効果は最大化されます。
多言語対応しないと「Googleにトラフィックを奪われる」未来
多言語対応の議論は、もはや「やれば儲かる(オフェンシブな施策)」という次元に留まりません。最新のGoogleの動向は、「やらないと損をする(ディフェンシブな施策)」という、より緊急性の高い現実を突きつけています。
現在Googleは、検索結果画面(AI Overviewsなど)において、ユーザーの検索言語に対するコンテンツが不足している場合、Google自身が英語などの他言語コンテンツをAIで自動翻訳して表示する機能を導入し始めています。
一見、ユーザーにとっては便利に見えるこの機能には、サイト運営者にとって恐ろしい罠が潜んでいます。
Googleがこの自動翻訳を行う際、ユーザーは「翻訳プロキシ」と呼ばれるGoogleが所有するサブドメインに誘導されます。そして、ユーザーは元のウェブサイトを訪問することなく、Googleのエコシステム内に留まったまま情報を得てしまいます。
これが意味することは、あなたの会社が多言語対応を怠った場合、あなたの会社が作った(日本語の)コンテンツをGoogleが勝手に翻訳し、あなたの会社に来るはずだった海外からのアクセス(トラフィック)を、Google自身が奪い取っていくという未来です。サイト運営者は、トラフィックだけでなく、貴重な行動データやコンバージョン(成約)の機会も失うことになります。
この「トラフィックの略奪」に対する唯一かつ最強の防衛策が、サイトBが実行した「自ら多言語ページを生成し、インデックスさせる」ことです。自社で公式の翻訳ページ(example.com/ko/ など)を提供することで、Googleに「コンテンツを横取り」させる理由を与えず、正当なトラフィックを自社サイトへ誘導することができるのです。
サイトBの「20%」という数字は、新たな市場を獲得した「成果」であると同時に、Googleにトラフィックを奪われる未来に対する「防衛」の成功例でもあるのです。
機会損失の正体:「20%」は氷山の一角に過ぎない
サイトBが獲得した「20%」の意味
サイトBの「20%の海外トラフィック」。これは、サイトAが「失った機会」の裏返しです。
この20%は、広告費を一切かけることなく(オーガニック検索のため)、自社の商品やサービスに潜在的な興味を持つ海外ユーザーとの「最初の接点」を、無料で大量に獲得し続けていることを意味します。
では、サイトAが失い続けている「見えない損失」の全体像は、この「20%分のトラフィック」だけなのでしょうか。いいえ、それは氷山の一角に過ぎません。本当の機会損失は、さらに深く、致命的なレベルで発生しています。
読めないサイトでは、買わないの法則
海外市場における「言語の壁」が、消費者の購買行動にどれほど致命的な影響を与えるか。ここで、グローバル市場調査の権威であるCSA Researchが数万人規模の消費者調査に基づき提唱する、有名な「Can't Read, Won't Buy」(読めないサイトでは、買わない)の法則に関するデータをご紹介します。
この調査が明らかにした、グローバル消費者の行動実態は衝撃的です
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40% の消費者は、母国語以外のウェブサイトからは「決して購入しない」と回答。
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76% のオンライン買い物客は、情報が母国語で提供されている製品を「好む」と回答。
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72% の消費者は、情報が母国語で利用可能であれば、製品やサービスを「購入する可能性が高くなる」と回答。
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74% の消費者は、母国語で販売後のサポートを提供するブランドから「購入を継続する可能性が高い」と回答。
このデータを、サイトA(日本語のみ)の状況に当てはめてみましょう。
サイトAの「海外トラフィックが1%未満」という現状は、「海外では需要がない」からではありません。それは、「海外の潜在顧客の40%を、ウェブサイトが日本語であるという理由だけで最初から拒否し、さらに36%(76% - 40%)の顧客体験を著しく損ねている」ことの「結果」なのです。
サイトAは、自社のサービスがどれほど優れていても、世界市場の大部分に対して自ら「シャッターを閉めている」状態と言えます。
損失は「トラフィック」と「コンバージョン」の二重苦
この分析から、多言語未対応による機会損失は、2つの致命的なレイヤーで発生していることがわかります。
損失①:認知の損失 (Traffic Loss)
これは詳述した「インデックス」の問題です。
日本語のサイトは、海外の検索結果に表示されない。つまり、そもそも「認知」される機会を失っています。サイトAの「1%未満」の海外トラフィックが、この損失の動かぬ証拠です。
損失②:成約の損失 (Conversion Loss)
さらに深刻なのが、こちらの損失です。
仮に、広告やSNS、口コミなど、検索以外の方法で海外ユーザーが奇跡的にサイトA(日本語サイト)にたどり着いたとします。その瞬間、「Can't Read, Won't Buy」の法則が発動します。
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40% のユーザーは「読めない」と感じた瞬間にサイトを閉じ、二度と戻ってきません。
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残りのユーザーの多くも、ブラウザの自動翻訳機能(Google Chromeの翻訳など)を使うかもしれませんが、CSA Researchの別のデータによれば、79% の顧客は「自動翻訳ツール」よりも「(サイト側が公式に提供する)自国語または通訳を介したライブサポート」を好むことがわかっています。
ユーザーは、企業が公式に提供する翻訳(=サイトBの取り組み)を「信頼の証」と見なすのに対し、ブラウザ任せの翻訳(=サイトAがユーザーに強いる手間)を「不親切で信頼できない体験」と見なすのです。
その結果、サイトAのコンバージョン率(CVR:成約率)は、海外ユーザーに対して絶望的なまでに低くなります。
一方で、サイトBのように公式な多言語対応を行うことは、このCVRを劇的に改善する可能性があります。
結論として、サイトBが獲得した「20%」の海外トラフィックは、サイトAが(仮に)獲得する海外トラフィックよりも、はるかに高いコンバージョン率が期待できる「質の高い」トラフィックなのです。サイトAは、「トラフィック(集客)」と「コンバージョン(成約)」の両方で、二重の機会損失を被り続けています。
何より、多言語対策を意識しなくて良いという利点
今回ご紹介した自動翻訳ソリューションはは、多言語化の重要性を裏付けるものですが、多くの担当者が「重要だとわかっていても、リソースが足りない」「運用が面倒だ」という壁に直面します。
しかし、サイトBが「20%」の海外トラフィックを獲得できた理由は、まさにこの「面倒さ」を高品質な自動翻訳ソリューションによって解決した点にあります。
このアプローチの最大の利点は、「一度システムを導入すれば、その後の運用は日本語サイトの充実に集中できる」という点です。
自動翻訳システムは、日本語で作成された高品質なベースコンテンツを基に、各言語のページを自動で生成・更新し続けます 。
つまり、「英語用の記事」「韓国語用の記事」を個別に管理する必要がなくなり、最も得意とする「高品質な日本語コンテンツの作成」という本質的な業務にリソースを集中できるのです 。
自動翻訳の導入は、「多言語対策」という新しい業務を追加するのではなく、「既存の業務(日本語サイト構築)の効果を、自動的にグローバル市場に拡張する」ための仕組みです。
これにより、これまで届かなかったインバウンドの見込み客や、潜在的な海外顧客層へと、最小限の運用コストでアプローチを拡大し続けることが可能になります
まとめ 今、あなたの会社が「自動翻訳」を導入すべき理由
この記事では、実際のGoogle Analyticsデータを基に、ウェブサイトの多言語対応が「あれば良い」というレベルの施策ではなく、グローバル戦略における「必須」の施策であることをご紹介しました。
この分析結果を踏まえた今、企業が取るべき道は二つに一つです。
道A:このまま何もしない(サイトAの道)
海外オーガニックトラフィックは1%未満のまま、「見えない市場」であり続けます。世界市場の40%からは「存在しない」ものとして扱われ続けます。
そして最終的には、自社のコンテンツをGoogleの「翻訳プロキシ」に奪われ、自社に来るはずだったトラフィックさえ失うリスクに晒されます。
道B:多言語化へ踏み出す(サイトBの道)
サイトBが示したように、現在「0」に近い海外市場から、20%(あるいはそれ以上)の新たなオーガニックトラフィックを獲得する道です。SEO(集客)と成約の両方を改善し、コンバージョン率の向上を見込みます。
そして何より、自社コンテンツの主導権をGoogleから守り、グローバル市場における自社の「可視性」を確立します。
今すぐ、あなたの会社のウェブサイトのGoogle Analyticsを確認してください。「Japan」以外の国からのオーガニック検索トラフィックは、サイトAのように1%未満になっていないでしょうか。
その「99%」という数字は、国内市場での成功の証であると同時に、世界市場からの「完全な隔絶」を意味しています。
SHIN株式会社では、このGoogle Analyticsの解析や自動翻訳ソリューションの導入など、インバウンド課題の現状打破を行ってまいります。
是非、最初のステップとして、まずは自社の「見えない機会損失」の現実を知ることから始めましょう。
