2026年1月、ニューヨークで開催された全米小売業協会(NRF)の「Big Show」で、小売業界の巨人ウォルマートと、テクノロジーの覇者Googleが手を組みました。この提携は、単なる「便利機能の追加」ではありません。私たちが長年慣れ親しんだ「検索して、商品リストを見て、選ぶ」というeコマースの常識を根底から覆す、巨大なパラダイムシフトの始まりです。
なぜウォルマートはGoogleを選んだのか? そして、絶対王者Amazonの牙城をどう崩そうとしているのか? 最新のリサーチ結果から、その深層を読み解きます。
1. 「ググる」から「頼む」へ。エージェンティック・コマースの衝撃
これまで、私たちはAmazonやGoogleで「キャンプ用品」と検索し、膨大な商品リストの中から自分でテントや寝袋を選んでいました。しかし、今回の提携でGoogleの生成AI「Gemini」に統合されるウォルマートの機能は、全く異なる体験を提供します。
ユーザーはAIに向かって「来週のキャンプに必要なものを揃えて」と話しかけるだけです。AIが文脈を理解し、テントから食材までを提案し、そのまま決済まで完了させる。これが「エージェンティック・コマース(Agentic Commerce)」と呼ばれる新しい潮流です。
ウォルマートは、消費者が抱える「商品を選ぶ疲れ(認知負荷)」を解消することで、Amazonが築き上げた「検索型EC」の優位性を無力化しようとしています。
2. 反Amazon連合軍「UCP」の結成
この提携の裏には、Googleが主導する「ユニバーサル・コマース・プロトコル(UCP)」という技術規格の存在があります。
Amazonは自社のプラットフォーム内に顧客とデータを囲い込む「クローズド」な戦略をとってきました。対するGoogleとウォルマートは、ShopifyやTargetなども巻き込んだ「オープン」な連合軍を形成しています。
UCPは、AIと小売業者のシステムをつなぐ共通言語です。これにより、どのAIを使っても、スムーズに商品を探し、購入できるようになります。Googleは検索の入り口を守り、小売業者はAmazonに依存せずに販路を広げる。両者の利害が一致した結果の「対Amazon包囲網」と言えるでしょう。
3. 「リアル店舗」こそが最強の物流センター
デジタル戦略のように見えますが、ウォルマートの最大の武器はやはり「リアル店舗」です。
全米人口の90%が店舗から約16km圏内に住んでいるという圧倒的な物理ネットワーク。ウォルマートはこれを「店舗」ではなく「倉庫」として再定義しました。AIが注文を受け付けると、遠くの倉庫からではなく、最寄りの店舗から最短30分で商品が届きます。
Amazonが翌日配送で物流革命を起こしたとすれば、ウォルマートは「数十分単位」の即時配送で勝負を挑んでいます。さらに、店舗の裏側では最新のロボットが稼働し、ピッキングや梱包を自動化。物流コストを劇的に下げることで、Amazonに対抗できる価格競争力を維持しています。
4. データという「新たな石油」を掘り当てる
ウォルマートがGoogleと組むもう一つの狙いは「広告」です。
広告事業「Walmart Connect」は急成長しており、その成長率はAmazonの広告事業を上回る勢いです。ウォルマートの強みは、Amazonが持っていない「リアル店舗での購買データ」を持っていること。
「ネットで広告を見た人が、実際に店舗で商品を買ったか」を追跡できるこの仕組みは、メーカーにとって喉から手が出るほど欲しい情報です。Googleとの提携でデジタルの接点が増えれば、このデータ活用はさらに加速し、小売業を超えた「広告プラットフォーマー」としての地位を確立するでしょう。
結論:2030年の勝者は「ハイブリッド」
Amazonは「何でも揃う店」としてネットの世界を支配しました。しかし、ウォルマートは「AIによる提案力」と「リアル店舗の即時性」を組み合わせることで、Amazonが模倣できない土俵で戦っています。
2030年、私たちはもう自分で商品を検索していないかもしれません。AIに「いつもの」と頼めば、最寄りのウォルマートからドローンや自動運転車で商品が届く。そんな未来において、ウォルマートは単なるスーパーマーケットではなく、私たちの生活を支える「OS」になろうとしているのです。