生成AIの進化は留まるところを知りません。これまではチャットボックスの中で文章やコードを生成してもらうのが一般的でしたが、ついにAIがブラウザという「現場」に出て、あなたの代わりにマウスを動かし、クリックし、文字入力を行う時代が到来しました。
Anthropic社が提供するブラウザ拡張機能「Claude for Chrome」に新たに追加された「ワークフローを教える(Teach workflows)」機能は、まさにその先駆けと言えるでしょう。ユーザーが画面を操作しながら喋りかけるだけで、AIがその手順を学習してくれるという、まるで新人の部下に仕事を教えるような体験が実現しています。
この記事では、この画期的な機能の概要と、中小企業でもすぐに使える具体的な活用方法について解説します。
「Claudeにワークフローを教える」とはどういうことか
これまでもRPA(ロボットによる業務自動化)ツールなどは存在しましたが、設定には専門的なシナリオ作成やプログラミング知識が必要な場合が多く、導入のハードルが高いものでした。
Claude for Chromeの新しいアプローチは非常に直感的です。
- 実演する(Record):拡張機能の「記録」ボタンを押し、普段通りにブラウザで作業を行います。
- 解説する(Narrate):作業を行いながら、「これから経費精算の承認を行います」「金額を確認して承認ボタンを押します」といったように、声やテキストでAIに意図を伝えます。
- 学習する(Learn):Claudeはあなたの操作(クリック、スクロール、入力)と、その時の画面の状態、そしてあなたの指示をセットで記憶し、自分専用の「ショートカット」として保存します。
次回からは、そのショートカットを呼び出すだけで、Claudeがブラウザを自動で操作し、同じタスクを再現してくれます。
なぜこれが革新的なのか
従来の自動化ツールとの最大の違いは、Claudeが画面を「視覚的」かつ「文脈的」に理解している点です。
例えば、Webサイトのデザインが少し変わってボタンの位置がずれたり、色が変更されたりした場合、従来のツールではエラーで止まってしまうことがありました。しかしClaudeは、「『送信』と書かれた青いボタンを押す」という意味を理解しているため、多少のレイアウト変更があっても臨機応変に対応できる可能性があります。
また、複数のタブを行き来する作業も得意です。スプレッドシートのデータを読み取り、それを別のタブで開いている管理画面に入力するといった、人間が日常的に行っている「アプリ間の橋渡し作業」をスムーズに代行します。
中小企業におすすめの活用シーン
リソースが限られている中小企業こそ、この「デジタルな同僚」を活用するメリットは大きいと言えます。高価なシステム連携開発やAPI導入を行わなくても、少額のサブスクリプションで業務効率化が可能になるからです。
具体的な活用例をいくつか挙げてみましょう。
1. 競合調査と価格モニタリングの自動化
マーケティング担当者が一人しかいないような場合、競合他社のサイトを毎日巡回して価格やキャンペーン情報をチェックするのは大きな負担です。Claudeに「競合A社、B社、C社のサイトを開き、トップページの価格情報を取得してスプレッドシートに追記する」というフローを一度実演して教えれば、毎朝自動でレポートを作成させることができます。
2. 採用・人事プロセスの効率化
新しい従業員が入社した際、勤怠システム、チャットツール、経費精算システムなど、複数のクラウドサービスに同じ情報を登録する必要があります。人事担当者は、社員名簿から情報をコピーし、各サービスの登録画面に入力していく作業をClaudeに実演して教えます。これにより、単純な転記ミスを防ぎながら、面倒なアカウント発行作業をワンクリックで完了できるようになります。
3. 問い合わせ対応の一次処理
Webサイトの管理画面に届いたお客様からの問い合わせ内容を確認し、「緊急度」を判定して社内のチャットツール(Slackなど)に通知する、というフローも自動化できます。「返品」や「クレーム」といったキーワードが含まれる場合のみ特定の担当者にメンションを送るよう指示しておけば、少人数のチームでも重要な対応を見落とすリスクを減らせます。
4. 定型的な経理処理
毎月末に発生する、請求書のダウンロードや領収書データの整理なども得意分野です。特定の件名のメールから添付ファイルを保存し、クラウドストレージの所定のフォルダに格納するといった一連の流れを自動化することで、本来注力すべき経営分析や財務戦略に時間を割くことができます。
導入時の注意点とリスク
非常に強力なツールですが、現段階では「リサーチプレビュー(試験運用)」的な側面もあり、いくつかの注意点があります。
- 処理速度:人間がパパっと操作するのに比べると、AIの判断が入るため動作がゆっくりに感じられることがあります。リアルタイム性が求められる作業には不向きかもしれません。
- セキュリティ:銀行口座の操作や、極めて機密性の高い個人情報の処理などを任せるのは、現時点では避けたほうが無難です。AIが誤ったボタンを押してしまうリスクや、悪意あるWebサイトからの攻撃(プロンプトインジェクション)のリスクもゼロではありません。
- 最終確認は人間が:重要なメールの送信やデータの削除など、取り返しのつかない操作については、必ず人間の承認(確認ダイアログ)を挟む設定にしておくことを強く推奨します。
まとめ
Claude for Chromeの「ワークフローを教える」機能は、プログラミングのできない現場の担当者が、自分たちで業務改善ツールを作れるようになる「自動化の民主化」を意味します。
「これ、毎回同じことやってるな」と感じるブラウザ上の作業があれば、まずは一度Claudeに実演して見せてみてはいかがでしょうか。それが、あなたの会社の生産性を劇的に変える第一歩になるかもしれません。